九谷焼とは
石川県南部で約370年にわたり受け継がれた色絵陶磁器、九谷焼。独自の美意識が紡ぎ出した歴史、時代を超えて進化した超絶技巧の数々を、産地に拠点を置く専門店が詳しく紐解きます。
九谷焼とは
九谷焼(くたにやき)は、石川県の南部(能美市、加賀市、小松市、金沢市など)で作られる日本を代表する色絵陶磁器です。
その最大の特徴は、白磁の素地を豪華に彩る「上絵付け(うわえつけ)」にあります。力強い骨描き(線描き)に、厚く盛り上がる和絵具が織りなす圧倒的な重厚感と色彩美は、他の焼き物にはない独特の格調を放ちます。
現在は経済産業大臣指定の「伝統的工芸品」であり、宮内庁の贈答品や国賓への記念品としても重用されるなど、日本工芸の最高峰として国内外の愛好家やコレクターから高く評価されています。
(写真:色絵百花手唐人物図大平鉢 石川県九谷焼美術館蔵)
九谷焼 370年の歴史
九谷焼の歴史は、決して平坦なものではありませんでした。誕生、突然の途絶、伝統高き再興を経て、現代の美術工芸へと昇華していったドラマチックな歩みがあります。
明暦元年(1655年)頃、加賀藩の支藩である大聖寺藩主・前田利治の命により、後藤才次郎が九谷村で開窯したのが始まりです。鉱山開発の際に磁器の原料となる陶石が発見されたことがきっかけでした。ここで焼かれた大胆かつ豪放な色絵磁器は、現在「古九谷」と呼ばれ、日本の至宝として語り継がれています。
開窯からわずか50年ほど経った元禄末期、九谷の窯は突如として閉じられてしまいます。藩の財政難や加賀本藩との政治的緊張など諸説ありますが、その真相は今なお歴史の謎に包まれています。ここから約100年もの間、産地は沈黙の時代を迎えます。
文化4年(1807年)、金沢に春日山窯が築かれたのを皮切りに、途絶えていた色絵磁器の復活へと動き出します。古九谷の再現を狙った「吉田屋窯」、緻密な赤絵で一世を風靡した、明治期のウィーン万博をきっかけに「ジャパン・クタニ」として世界にその名を広めた、九谷焼を代表する画風。古九谷・吉田屋・赤絵細描・彩色金襴手など、時代を超えて受け継がれた技法が、現代の名工たちの手によって今も息づいています。
明治時代に入ると、九谷庄三らが完成させた、彩色絵付けに緻密な金彩を施す「彩色金襴手」がウィーン万国博覧会などで大絶賛を浴びます。欧米へ大量に輸出され、「Japan Kutani」の名は世界中に轟き、芸術品として海外の博物館や王侯貴族のコレクションに収められました。
戦後から現代にかけ、九谷焼は日常の器としての進化を遂げる一方で、人間国宝や名工たちの手により、純粋な芸術・美術品としての価値を極めていきました。伝統的な上絵技法を徹底的に研ぎ澄まし、現代の感性を吹き込んだ美術品は、「暮らしを彩る家宝」として今も新たな歴史を刻み続けています。
九谷焼の画風と上絵技法
九谷焼の最大の魅力は、「九谷五彩(緑・黄・紫・紺青・赤)」と呼ばれるガラス質で透明感のある和絵具を用いた、力強く華やかな上絵付けにあります。その370年の歴史の中で、時代ごとに数々の名作が生み出され、現代の九谷焼のベースとなる「名品五様(めいひんごよう)」と呼ばれる代表的な画風が確立されました。
現在では「作家の数だけ、窯元の数だけ作風がある」と言われるほど表現は多様化しています。現代の巨匠たちはこの伝統画風をベースにしつつ、独自の感性と極限まで研ぎ澄ませた技で新たな九谷焼の境地を切り開いています。九谷プレミアムセレクションでは、そうした卓越した芸術性を持つ作品を厳選してお届けしております。
九谷焼の礎「名品五様(めいひんごよう)」
長い歴史の中で、九谷焼の土台となった主要な基本画風です。時代ごとに絵具の使い方や構図の研究が重ねられ、現代へと受け継がれる多様性のベースがここで確立されました。
古九谷(こくたに)
九谷五彩を大胆に使い、力強い骨描き(線描き)と重厚な色彩で絵画のように伸び伸びと描く、九谷焼の源流たる様式です。
木米(もくべい)
器の全面に赤絵具の地色を施し、中国風の人物や羅漢などを五彩の絵具で生き生きと描き出すエキゾチックな画風です。
吉田屋(よしだや)
赤を一切使わず、緑・黄・紫・紺青の四彩のみで器面を隙間なく塗り埋める、古九谷をも凌ぐ重厚さが特徴の作風(青九谷)です。
飯田屋(いいだや)
赤絵の非常に細い線だけで緻密な鳥獣や人物、幾何学文様を描き込み、随所に金彩をあしらう宮本屋窯発祥の技巧(赤絵細描の源流)です。
庄三(しょうざ)
西洋の和絵具を取り入れ、それまでの各画風の技法を融合。五彩の上に絢爛豪華な金彩をちりばめ、明治期の輸出(彩色金襴手)の祖となりました。
作家たちが突き詰めた「至高の技法」
先人たちが築いた古典様式を受け継ぎながら、九谷プレミアムセレクションがご紹介する現代の名工たちは、自らの技をさらに尖らせ、独自の芸術へと昇華させてきました。ここでは、当店の作家たちが生涯をかけて磁器に命を吹き込む、至高の技法の数々をご紹介します。
赤絵細描(あかえさいびょう)
細筆を使い、髪の毛よりも細い極細の赤線だけで器全体に緻密な幾何学文様や絵を描き込む技法です。気が遠くなるほどの集中力と、一糸乱れぬ熟練の職人技(福島武山先生など)が求められる、九谷焼屈指 of 精緻な技法です。
青粒・白粒(あおちぶ・しろちぶ)
器の表面に、和絵具で1ミリにも満たない等間隔の極小の粒を地を埋め尽くすように打ち込んでいく上絵技法です。さらに金彩を盛り上げる「金盛」などを組み合わせる超絶技巧(仲田錦玉先生など)は高貴な品格を生み出します。
彩色金襴手(さいしょくきんらんで)
明治期に世界を魅了した画風の正統進化。鮮やかで高貴な五彩の上絵絵付けのうえに、極細の筆で絢爛豪華な金彩を描き込む技法です。工芸品でありながら圧倒的な芸術性を放つ、もっとも華やかな様式(高聡文先生など)です。
古九谷・吉田屋様式(五彩手・青九谷)
九谷焼の源流である古九谷や、その精神を継いだ吉田屋窯の画風. 赤を使わず、緑・黄・紫・紺青の和絵具を大胆に塗り埋める「青九谷」や、赤を加えた五彩で力強い文様を描く「五彩手」があり、重厚で深みのある佇まい(三ツ井為吉先生など)が特徴です。
磁器と陶器の違い
九谷焼には、陶石を原料とする「磁器」と、土を原料とする「陶器」の2種類が存在します。素材の性質によって、上絵(絵付け)が放つ趣や格調も大きく変化します。
磁器(じき)
原料
陶石を主成分とするため「石もの」とも呼ばれます。
特徴
ガラス質を多く含み、滑らかで透き通るような「白い器肌」が特徴です。濁りのない白磁だからこそ、最高峰の緻密な絵付けや純金の金彩が美しく際立ち、美術品としての気品を最大限に引き出します。
陶器(とうき)
原料
粘土を主原料とするため「土もの」とも呼ばれます。
特徴
土ならではの素朴な温もりと、ずっしりとした風合いが魅力です。掛ける釉薬や貫入(かんにゅう:ヒビ模様)によって独特の表情が生まれ、絵付けに味わい深い渋みや力強さを与えます。
九谷プレミアムセレクションでご紹介している美術工芸品は、伝統の技を極めた緻密な絵付けに専念する名工の逸品から、素地のデザインや成形まで独自のアプローチにこだわる作家の表現まで、多岐にわたる希少な美術工芸品を厳選しています。美しい白磁の気品、あるいは味わい深い土の風合い──それぞれの素地が巨匠たちの至高の筆致と融合した作品は、一生を共にするコレクションにふさわしい価値を持っています。
当店が扱う作家について
九谷プレミアムセレクションでは、370年の歴史と伝統を受け継ぐ九谷焼の中でも、特に卓越した技術と芸術性を持つ名工・伝統工芸士の作品のみを厳選してご紹介しています。
石川県能美市に拠点を構え、100名以上の作家・職人と長年にわたり深い信頼関係を築いてきた北野陶寿堂だからこそ実現できる品揃えです。作家と直接対話を重ねながら選び抜いた作品は、二度と同じものが生まれない美術工芸品ばかり。ご自宅を彩る家宝として、また一生の記念となる贈り物として、特別な出会いをお届けします。